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注射剤の“気泡か異物か”をその場で見分ける——AI外観検査で不良流出と過剰廃棄を同時に減らす

業界:医療・福祉 部門:研究・開発(R&D) 課題:品質向上・不良低減・クレーム削減 ソリューション:物理的品質検査(製造ラインの画像検査・センサー異常検知)

背景・課題

注射剤(シリンジ製剤)の外観検査では、製造工程で混入する可能性のある異物と、製造上避けがたい無害な気泡をカメラ画像だけで正しく判別するのが難しく、見逃し(不良流出)と過検出(良品廃棄・再検査)の両方がコストと品質リスクになっていた。また、製品やロットごとの条件差に合わせた検査パラメータの調整に熟練が必要で、立ち上げや条件変更のたびにR&Dと生産の負荷が高かった。

AI活用ソリューション

唯一の解決策として、シリンジ専用に学習させたAI画像判定を外観検査機に組み込み、“気泡”と“異物”の見分けをライン上で自動実行する。具体的には、過去ロットの画像・動画とR&Dによる正解ラベル(気泡・繊維・金属片・ガラス片など)を用いて特徴を学習したモデルを搭載。検査では容器を回転・傾斜させながら多方向から高速撮像し、AIが形や動き方(浮力での移動、微小なチラつき等)を手掛かりに瞬時に判定、判定根拠の可視化ヒートマップとともに合否を出す。境界的なサンプルは自動で保留し、作業者の承認で学習データに追加されるため、新しい製品や条件でも短時間で安定化できる。結果として、従来のルールベースでは難しかった“無害な気泡は通し、有害な異物だけを止める”運用が実現し、良品の過剰廃棄と不良の見逃しを同時に抑えられる。

AI導入前後の変化

導入前 (Before)

  • ・気泡と異物の判別が難しく、過検出による良品廃棄・再検査が多い/微小異物の見逃し懸念が常に残る。・製品切替や条件変更のたびに検査パラメータの細かなチューニングが必要で立ち上げが長期化。・検査根拠が言語化しづらく、監査対応で説明工数が増大。
  • ・条件立ち上げ時の試行錯誤が大幅減。日々の微調整回数が“何度も”から“必要時のみ”へ。・監査資料作成では、AIの判定ログと可視化画像を転用でき、従来比で作表・説明作成の手戻りが減少。

導入後 (After)

  • ・AIが気泡と異物の動き・形状特徴を統合判定し、ラインスピードを落とさずに安定合否。・難サンプルは人の最終確認に回し、承認結果を継続学習に反映して短期間で最適化。・根拠の可視化(ヒートマップ)により監査・バリデーション資料が作りやすく、説明性が向上。

イメージ図

AI活用イメージ図

成果・効果・ROI

品質KPI(見逃し低減と過検出低減)の同時改善により、廃棄・再検査コストとクレームリスクが逓減。R&Dと生産の立ち上げ負荷も下がり、新製品投入やロット変更のサイクルが短縮。ROIは“廃棄・再検査費の削減”“ライン停止時間の短縮”“監査対応の工数削減”の和で回収しやすく、段階導入でも効果を可視化しやすい。

実事例

シリンジ製剤向けのAI搭載自動外観検査機により、ライン上で無害な気泡と有害な異物を見分けて合否判定を自動化。従来難しかった判定の安定化と、調整工数・過剰廃棄の同時削減を狙う事例で、判定根拠の可視化により監査対応もしやすくなる。

https://www.syntegon.jp/news/ai-visual-inspection-machine-for-syringes/

さらなる展開

同一の学習枠組みをバイアル・アンプル・点滴バッグなど他剤形へ横展開。目視工程(目視補助・二重チェック)や充填・打栓・ラベリング後の最終外観にも拡張し、MESや電子バッチ記録と連携してトレーサビリティを自動化。クレーム解析や逸脱調査でAIの判定根拠を再利用し、CAPAの迅速化にも波及。

導入ロードマップ

  1. 現状分析 - 不良流出・過検出の発生状況、再検査・廃棄・ライン停止のコスト、監査対応工数を棚卸し。代表製品・代表欠陥(気泡・繊維・ガラス片など)と撮像条件を確定し、評価用データセットを準備。
  2. 費用対効果の試算 - (1)廃棄・再検査費、(2)立ち上げ・調整工数、(3)監査対応工数の削減見込みを金額化。装置改修・AIソフト費・保守費を含めて回収期間を算定。
  3. PoC検証 - 既存ラインで並走評価。既存ルール判定とのA/B比較で“気泡と異物の分離性能”“スループット”“人手確認率”を検証し、監査用ドキュメントひな型も同時に整備。
  4. 社内稟議 - 品質・生産・QA・ITが合意可能な運用ルール(保留サンプルの扱い、継続学習の手順、監査時の説明方法)を定義し、適用範囲と開始時期を決定。
  5. 本番導入 - 対象ラインから段階展開。モデル更新の定期審査、監査ログの保全、逸脱時の切替手順(従来ルールへのフォールバック)を手順化し、KPIで継続モニタリング。

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