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1分で“空力目途付け”─R&Dの発想量を桁上げするAIサロゲート設計

業界:製造業(自動車・電子・機械等) 部門:研究・開発(R&D) 課題:技術革新・新規事業開発 ソリューション:アイデア創出支援(製品コンセプト/早期デザイン目途付け)

背景・課題

新製品のコンセプト検討で、デザイン性と空力・騒音・熱などの工学制約を同時に満たす検証が必要。しかし初期段階からCAEを都度回すと1ケース数十時間を要し、専任者の予約待ちや再計算の往復で“発想の数”と“検証速度”が頭打ちに。R&Dのゲート審査も遅れ、好機を逃しがち。

AI活用ソリューション

解決策は、トヨタ自動車・トヨタシステムズ・東京大学の共同研究から生まれたAIサロゲートモデル「3D-OWL」を中核に据えた“初期コンセプト発想スタジオ”。既存のCAE/実験結果と形状データを学習させ、設計者やデザイナーの手元PCで3D形状を読み込むだけで、Cd値や圧力・流速分布などの予測を約1分で即時表示。これにより、意匠の微修正(例:ルーフ/Aピラー角度、コーナR、リアスポイラー長)をその場で試し、発想→性能当たりを可視化→次案生成の“壁打ち”を高速に回せる。最終候補のみを正式CAEや風洞で精査する運用に切り替え、上流での手戻りと専任者負荷を大幅低減。汎用PCで動作しクラウド持ち出しも不要なため、機密形状でも安全に“発想を回す”ことに全集中できる。

AI導入前後の変化

導入前 (Before)

  • 初期段階からCAE依存(1ケース約16時間)。デザイン部は専任者の空きを待つため、1スプリントで比較できる案はごく少数。工学的に成立しない案に時間を費やしがち。
  • 試算例:初期検討40案の場合 旧来=40案×16h=640h → 新運用=40案×1分(約0.7h)+最終候補6案×16h=約97h。約543h削減/案件(約85%削減)。

導入後 (After)

  • 設計者・デザイナーが自席で1分予測→即比較→方向性決定。最終候補のみ正式CAE/風洞へ。初期段階で“工学的に通る”案の比率が上がり、ゲート審査が前倒しに。

イメージ図

AI活用イメージ図

成果・効果・ROI

成果・効果・ROI(試算) 1) 発想量:比較案数が従来比5~10倍(1分評価によりスプリント中の探索幅が拡大)。2) リードタイム:初期コンセプトフェーズ短縮(例:4週→2~3週)。3) 品質:上流での“赤点”除外により、後工程の手戻り減。4) ROI目安:年10案件で“約543h×10=約5,430h”削減。設計人時6,000円/h換算で約3.26億円相当の創出価値。ツール・導入費用を年5,000万~8,000万円と仮置きしても回収期間は約2~3カ月(いずれも前提置きの参考試算)。

実事例

トヨタシステムズが人とくるまのテクノロジー展2025で披露したAIサロゲート「3D-OWL」は、3D形状から空力などのCAE結果を約1分で予測。大規模車両モデルで従来約16時間の解析に相当する精度の“目途付け”を汎用PCで実現し、初期設計の案出しと比較検討を高速化する。

https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2505/29/news038.html

さらなる展開

横展開候補:電子機器の熱設計(放熱・風量)、家電機構の騒音・振動、産機の強度・疲労、鋳造欠陥予測(ギガキャスト含む)など“形状に起因する性能”全般。PLM/3D-CAD連携で設計レビューを自動生成、探索設計(DoE)や生成デザインと接続すれば“発想→性能→根拠提示”を一気通貫に。R&Dのブレスト会やネーミング・コンセプトワードの可視化にも、性能ヒートマップを“共通言語”として活用可能。

導入ロードマップ

  1. 現状分析 - 初期コンセプト~量産設計までのどこで“発想が止まるか”を棚卸し。対象物理(空力・熱・騒音等)、現行CAE工数・待ち時間、必要精度(目途付けの許容誤差)を定義。
  2. 費用対効果の試算 - 過去プロジェクトの案数×解析時間×人時単価×HPC費でベースラインを算出。サロゲート適用後の“目途付け→最終CAE限定”運用への置き換えで時間・コスト差分を試算。
  3. PoC検証 - 1テーマ(例:外形の空力)でデータ準備→学習→予測→相関評価。設計席での1分評価とCAD連携の操作性、誤差の許容範囲、セキュリティ要件を確認。
  4. 社内稟議 - PoCの定量効果(時間削減・案数増・誤差分布)と運用設計(最終CAEの門番化、適用外条件の明確化)を提示。情報資産・機密形状の取扱いと監査ログ設計を添付。
  5. 本番導入 - 優先領域から順次ロールアウト。設計レビューに“AI予測+根拠(分布図・確からしさ)”を組み込み、設計・デザイン・CAEの三位一体で探索設計を標準プロセス化。

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