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暗号化パケットだけで“いまの満足度”を点数化。動画QoEを1秒ごとに見える化してクレームの芽を摘む

業界:IT・通信 部門:研究・開発(R&D) 課題:品質向上・不良低減・クレーム削減 ソリューション:スコアリング・評価(顧客・商談・人材・製品などの自動採点・ランク付け・評価)

背景・課題

モバイル網で動画トラフィックが急増し、従来のQoS(通信速度や遅延など)だけではユーザーが感じる“満足度”を把握できず、品質低下が起きてから苦情で気づく、原因切り分けに時間がかかるといった課題があった。アプリ側の情報取得が不要でないと導入が難しい、従来の標準(ITU-T P.1203)は10秒程度の粒度でしか推定できず、瞬間的な劣化の検知が遅れる問題もあった。

AI活用ソリューション

唯一の解決策は、端末→クラウドへの暗号化アップリンクのパケット統計だけから、動画視聴の体感品質(QoE=MOSスコア)を1秒ごとに推定・スコアリングする富士通のAI「Realtime Quality of Experience Sensing」をネットワーク側に実装すること。具体的には、基地局〜コア網のミラーポートで取得するアップリンクのパケット数や到着間隔などの統計を0.5秒スロットで特徴量化し、LSTMベースの映像特徴量推定モデル→MOS推定モデルの二段構成でサービスやプロトコル(HLS/DASH等)が変わっても適応可能にする。これにより、アプリ改修やメディア品質情報の取得なしに、利用者ごと・セルごとのMOSをリアルタイム採点し、しきい値割れ時に自動的に無線リソース再配分やハンドオーバー、スケジューリング強化をトリガーできる。結果として、映像停止や画質低下の前兆を秒単位で捕捉し、現場運用は“事後対応”から“事前回避”へと転換できる。

AI導入前後の変化

導入前 (Before)

  • 運用はスループット等のQoS中心。品質劣化はユーザー申告や後追い解析で把握。アプリからのメディア情報取得や主観評価試験に頼り、粒度は10秒程度で即応が難しい。
  • 全パケット解析が不要になり、アップリンク統計のみに絞ることで処理データ量を98%削減=分析処理の計算資源・実行時間を大幅圧縮。アプリ連携開発工数は不要(改修0本)。

導入後 (After)

  • ネットワークだけで1秒毎のMOSを自動採点。品質低下の兆候を早期検知し、セル間切替・優先制御を自動発火。アプリ側改修ゼロで多様な配信サービスに横断対応。

イメージ図

AI活用イメージ図

成果・効果・ROI

評価実験で、動画アプリから取得した情報を用いるITU-T P.1203の推定値と85%以上で同等のMOSを1秒粒度で推定。これにより、クレーム発生前の予防対応率向上、原因切り分け時間の短縮、過剰な設備増強の抑制が期待できる。ROI試算の考え方:①QoE劣化検知で返金・問い合わせ対応件数を何%削減できるか、②手動ログ解析時間の短縮時間×担当者コスト、③無線設備投資の先送り効果(CAPEX回避額)を積み上げる。

実事例

富士通は、暗号化アップリンクのパケット統計だけから、アプリ連携なしで動画視聴の体感品質(MOS)を1秒ごとに推定するAIを開発。LSTMを用いた二段モデルでビットレート・解像度・ストール等の特徴量を推定し、ITU‑T P.1203相当の推定と85%以上一致。全パケットを使う方法比で処理データ量98%削減し、運用指標としてMOSを活用して映像品質の維持・改善を可能にする。

https://www.fujitsu.com/jp/about/research/article/202310-realtime-qoe-sensing.html

さらなる展開

同一基盤でクラウドゲームやライブ配信、AR/VRのQoEスコアリングへ拡張。RAN最適化(RIC連携)や5GスライスSLA監視、顧客サポート画面へのMOS可視化、品質起因の解約リスクスコア連携など、ネットワーク運用・CS・経営KPIに横展開可能。

導入ロードマップ

  1. 現状分析 - 対象サービスのトラフィック状況・苦情種別・既存KPIを棚卸し。どのセル/時間帯でQoE低下が多いかを可視化し、監視ポイント(ミラー)とデータ保持方針を決める。
  2. 費用対効果の試算 - 想定監視対象ユーザー数と処理基盤コスト、期待削減効果(問合せ対応時間、障害対応工数、CAPEX回避)をモデル化。しきい値・自動制御の適用範囲を定義。
  3. PoC検証 - 限定エリアでミラー取得→特徴量抽出→二段AIモデルの学習・評価を実施。P.1203推定値や主観評価との一致率、検知リードタイム、計算資源を測定し運用手順を確立。
  4. 社内稟議 - PoC結果(一致率、98%処理データ削減、対応時間短縮の見込み)と投資回収計画を提示。セキュリティ・個人情報影響評価、運用部門SOP改訂案を付す。
  5. 本番導入 - 監視範囲を全エリアへ拡大。ネットワーク制御(ハンドオーバー/スケジューリング)と連携し、自動是正を段階適用。CS/監視画面にMOSを組み込み、クレーム予防フローを運用化。

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